31 Jul 2017

船を捨てるな!

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DGUTS

Brocade日本支社(現時点では!)の皆さんへ

皆さんのなかには私が通勤用に使っていたリュックサックに縫い付けてあったワッペンを覚えている方々もいると思います。覚えていないという方のために説明すると、紺色の地に黄色で、「どんなことがあっても船を捨てるな。」という言葉が記されたものです。どうして私がそれを会社用のリュックサックに貼り付けたか、そしてどうしてその言葉を見て皆さんのことを考えたかをお話しさせて下さい。

アメリカが独立戦争(1775-1783)を戦って英国から独立を勝ち得たことは周知の事実ですが、独立戦争の35年後にアメリカで戦争が再び勃発。「1812年戦争」(1812-1815)と呼ばれているこの戦争では、戦闘の多くが英・米二国の海軍――当時世界最強の大英帝国海軍と独立まもない若い国アメリカのごく小規模の海軍――の間でくりひろげられました。

イギリスの戦艦によって航行封鎖されていたボストン港のすぐ外でも戦闘がありました。アメリカ人の艦長ジェームス・ローレンスはこの封鎖を解くため、イギリス海軍に戦闘を挑むことを決意、部下とともに出港して勇敢にもイギリス戦艦を攻撃しましたが、戦闘開始15分でローレンスの部下たちはイギリス軍に降参しました。

彼らは降伏せざるを得なかった。というのもローレンス艦長は戦闘開始後まもなく狙撃され重傷を負っていたのです。医師のもとに搬送される途中ローレンスが部下たちに下した最後の命令が、この「船を捨てるな!」という言葉だったのです。確かに士気を鼓舞する素晴らしい命令ですが、現実は苛酷で、厳しく訓練され経験を積んだ強敵のイギリス軍に対しアメリカ軍はまったく歯が立ちませんでした。

ローレンス艦長は次の日撃たれた傷の悪化で亡くなりました。おそらく部下たちが船を捨てたことは知らないままだったのではないでしょうか。イギリス軍の手に落ちたローレンスの戦艦はイギリス軍によってカナダへと持ち去られました。しかしローレンスの部下たちは彼の最後の言葉を決して忘れることはありませんでした。そして彼の言葉は、同僚のアメリカ軍艦長により軍旗に縫いられ付けたのです。それを模したのが、私のリュックサックのワッペンです。

どうして私がこの話を持ち出したのか、ローレンスの逸話とあなた方やBroacadeといったい何の関係があるのかと不思議に思われるかもしれません。我々のセールスの世界では業績がすべてですが、ここで私が申しあげたいことは、ローレンスやその部下達のような英雄は成し遂げた成果のみならず、人格や行動によって評価されるということです。共に助け合いながら一つの目標に向かって戦う過程で心身ともに鍛えられ、たとえ戦いの最中に力尽きて倒れても、勇敢さや忍耐強さはその後も永久に讃え続けられます。ローレンス艦長率いるアメリカ軍は戦いには敗れましたが、ローレンス艦長もそして彼の部下も英雄として永遠に語り継がれ人々の記憶に刻まれているのです。ローレンスの最後の言葉を記した軍旗は現在アメリカの海軍兵学校に飾られています。海軍兵学校は私の父の母校であり、そして今私の息子が在籍しています。

私がローレンスの言葉の刻まれたこのワッペンを見る度に皆さんのチームのこと、そして我々がともに掲げてきた目標を思い出すのはこう言った理由からです。正直に申し上げて、これから11月までの間に何が起こるのか私には予測できません。しかし、皆さんと共に戦ってきたこれまでの8カ月間は、リーダーシップの何たるかを学ぶ上で、私にとって人生でもっとも貴重な経験であり、またその間、皆さんの苦難に立ち向かっていく様子は私の想像をはるかに超えたものでした。Arris、Extreme、またはBroadcom、あるいはPulseと皆さんの進む道はそれぞれ違うでしょうし、まったく別の道を歩む人もおられることでしょう。でも将来の方向性が定まった時、この数カ月の経験を振り返り、皆さんは「自分は船を捨てて逃げはしなかった。」と誇りを持って言うことができると私は思います。

「忍耐強さ」、また「耐えがたきを耐える」という日本国民が守り続けたこの信条について、私は皆さん、そして日本人の誰に対してもお教えすることは何もありません。この日本の伝統を皆さんのチームが他の誰よりも強く持っていることは素晴らしいことです。そして皆さんと共に働くことができたことは私にとって大変光栄でした。そのことに心より御礼を申し上げます。その一方ですべての決着のつく前に東京を離れることを大変申し訳なく思っています。「船を捨てかけている」と言われても仕方がない状況です。でもたとえ日本を離れても、私は8月末まではアメリカから今の仕事を続けます。仕事の進捗状況および内容については、また近いうちに改めてメールします。

心からの敬意と友愛の念をこめて

/matt